栃木県で、6軒まわった。
佐野に2軒、栃木市に1軒、小山に1軒、足利に1軒、益子に1軒。別々の街の、別々の店である。狙って集めたわけではなく、行ける機会があったときに行っただけだ。
ところが、6本の記事を書き終えて並べてみたら、気持ちの悪いくらい共通点があった。

6軒、ぜんぶ「粉」だった
まず、これである。
ラーメンが2軒。そばが3軒。餃子が1軒。
全部、粉を練って、のばして、切ったものである。小麦粉かそば粉か、麺か皮かの違いしかない。
しかも、いちばんの例外に見える店にも粉があった。
太平山 山田家の名物は焼き鳥・玉子焼き・だんごで、これは麺類ではない。だがだんごは、太平山神社に奉納された米を粉に挽いて作られたものである。
結局、粉だった。
6軒の一覧
| 店 | 街 | 種類 | 訪問 |
|---|---|---|---|
| 麺屋ようすけ | 佐野市(新都市) | 青竹手打ちラーメン | 2回 |
| 押山 | 佐野市(田沼) | 青竹手打ちラーメン | 1回 |
| 太平山 山田家 | 栃木市(謙信平) | 手打ちそば・名物3種 | 4回 |
| よいち餃子大王 小山店 | 小山市 | 創作餃子 | 1回 |
| めん割烹 なか川 | 足利市 | 在来種の手打ちそば | 1回 |
| あづま庵 | 芳賀郡益子町 | 手打ちうどん・そば | 1回 |
6軒で、のべ10回。
そして、打ち方の話ばかりしている
2つ目の共通点は、もっとはっきりしていた。
どの店も、作り方を前に出している。
- 麺屋ようすけ——店内の製麺室で毎日、青竹手打ち
- 押山——店名が「佐野青竹手打ちラーメン」
- めん割烹 なか川——石臼挽き・自家製粉。しかも在来種を自分の畑で栽培
- 太平山 山田家——純手打ちそば。玉子焼きと焼き鳥は注文を受けてから焼く
- あづま庵——手打ちうどん・そば
- よいち餃子大王——手包み餃子
並べてみて気づいた。
全部「手」の字が入っている。手打ち、手挽き、手包み。
看板に書く言葉として、この県では「手」が効くのだと思う。素材でも味でもなく、誰がどうやって作ったかを先に言う。
粉の話は、水の話でもある

3つ目の共通点は、あとから気づいた。
佐野市には、出流原弁天池湧水という日本名水百選の湧き水がある。佐野の水はクセがなくまろやかで、スープに向いているとされる。
足利市は、渡良瀬山系の豊かな伏流水に恵まれた土地で、古くから「そばの街」と呼ばれてきた。なか川は旅館だった時代から18メートルの井戸を使っている。
粉を水で練って、水で茹でて、水で締める。つゆもスープも水から作る。工程のほとんどに水が入っている。
粉の産地に名店が集まるのではなく、水の良い土地に集まる——と言い切るだけの数は、まだ見ていない。ただ、この6軒に関しては、水の話が何度も出てきた。
6本の研究報告
1.麺屋ようすけ(佐野新都市)——その街にいることと、その街を歩けることは、別のこと
数年前、毎年冬になるとこの街で数日を過ごしていた時期があった。そのあいだ、この店には一度も行けなかった。場所が離れていたからである。
用があってその街にいる人間は、街を選べない。滞在先の周りで食べる。それ以上に動く時間も理由もない。
通わなくなってから、春に、選んで行った。澄んだ一杯と背脂の一杯が同じ厨房から出てくる店だった。
→ 麺屋ようすけ(佐野)|冬にしか来なかった街に、春に来て食べた青竹手打ち
2.押山(佐野・田沼)——行列は、平等に見えて平等ではない

30分並んだ。並びながら周りを見ていたら、昼休みの、勤務中と思われる人が大勢いた。
私は時間に余裕があった。この人たちの30分は、私の30分と同じ長さではない。
出てきたのは、底が見えるほど澄んだ一杯だった。澄んでいると、全部見える。チャーシューの切り口も、煮卵の断面も、その瞬間に採点される。綺麗さは飾りではなく、この様式が要求している条件だった。
→ 押山(佐野)|30分並んで出てきたのは、綺麗な一杯だった【青竹手打ち】
3.太平山 山田家(栃木市・謙信平)——献立ではなく、奉納だった

焼き鳥、玉子焼き、だんご。太平山三大名物である。甘いものと辛いものが同じ品書きに並んでいる理由が、ずっと分からなかった。
調べたら、3つとも太平山神社に奉納されたものだった。夜鳴きする鶏は不吉という言い伝えから納められた鶏が、卵は玉子焼きに、肉は焼き鳥に。五穀豊穣を願って納められた米が、だんごに。
この3つは、献立ではない。奉納の記録である。組み合わせの理由が、味の外にあった。
→ 太平山 山田家(栃木)|焼き鳥・玉子焼き・だんごが並ぶ理由は、献立ではなく奉納だった
4.よいち餃子大王 小山店——21種に、21通りの食べ方が貼ってある

栃木で餃子といえば宇都宮だが、ここは小山である。宇都宮餃子の特徴も知らないまま入った。
壁に貼り紙があった。「全21種 焼き餃子の美味しい食べ方」。岩塩、付属のトッピング、ブラックペッパー、何も付けず——餃子ごとに指定されている。
宇都宮餃子は「厳密な定義がないこと」が特徴とされる。決めないことで広げる宇都宮と、決めることで広げる小山。広げ方が、逆だった。
→ よいち餃子大王(小山)|21種の餃子に、21通りの食べ方が壁に貼ってあった
5.めん割烹 なか川(足利)——99.9%が品種改良された世界で
つるつるしない。がっしりして、味が強い。つなぎを使っていないので麺が短く切れる。
店の公式サイトにこうある。「在来種の栽培は難しいため、現在栽培されている99.9%以上が品種改良された品種です」。なか川はその残りを、自分の畑で育てている。
天ぷらも炊き込みご飯も食べた。壁には相田みつをの書が掛かっていた。それなのに、記憶には蕎麦しか残っていない。
→ めん割烹 なか川(足利)|99.9%が品種改良された世界で、在来種の蕎麦を食べる
6.あづま庵(益子)——料理が来る前に、感動していた

席に案内されて、お冷が出てきた。それが昭和のプリントグラスだった。すりガラスに、オレンジと白でラケットを持った女性。
まだ何も食べていない時点で、私はこの店を気に入っていた。
益子は焼き物の町で、しかも益子焼は鉢や水がめといった日用品の産地として始まっている。その町で感動したのが、ガラスの日用品だった。「良いものを出す店」ではなく、「日用品がちゃんとしている店」だったのだと思う。
→ あづま庵(益子)|昭和のコップのお冷に、料理より先に感動した手打ちそば屋
6軒中5軒で、酒を飲んでいない
呑み歩き研究所と名乗っておきながら、栃木で酒を飲んだのは1軒だけだった。
| 店 | 飲んだもの |
|---|---|
| よいち餃子大王 | ハイボール |
| 太平山 山田家 | ノンアルコールビール |
| あづま庵 | ノンアルコールビール |
| 麺屋ようすけ/押山/なか川 | なし |
理由ははっきりしている。車で動いているからである。
栃木の店は、駅前にあるとは限らない。押山は田沼、山田家は山の中腹、なか川は住宅街、あづま庵は益子の外れ。車がないと届かない場所に、良い店がある。
そして昼の店が多い。そば屋もラーメン屋も、夜まで開いているとは限らない。飲めないと分かっていて行っている、というのが正しい。
気づいたら、月曜に来ている
最後に、自分でも笑ってしまったことを書いておく。
のべ10回の訪問のうち、9回が月曜日だった。
| 日付 | 曜日 | 店 |
|---|---|---|
| 2022年11月14日 | 月 | 太平山 山田家 |
| 2023年5月15日 | 月 | 麺屋ようすけ |
| 2023年6月19日 | 月 | 太平山 山田家 |
| 2023年9月4日 | 月 | めん割烹 なか川 |
| 2023年10月2日 | 月 | あづま庵 |
| 2023年10月29日 | 日 | よいち餃子大王(小山泊) |
| 2023年10月30日 | 月 | 押山 |
| 2023年12月4日 | 月 | 太平山 山田家(謙信平) |
| 2024年4月15日 | 月 | 麺屋ようすけ |
| 2024年11月18日 | 月 | 太平山 山田家 |
狙っていない。写真のEXIFを並べて、初めて気づいた。
唯一の日曜が小山の餃子大王で、これは小山に泊まった日の夜である。そしてその翌日の昼、私は佐野で30分並んでいる。
日曜に泊まって、月曜に動く。そういう形になっていたらしい。
研究員の結論
栃木は、粉の県だった。
青竹で打つ。石臼で挽く。手で包む。作り方を看板に書く県である。素材の自慢より先に、工程の話が出てくる。
そしてその工程には、必ず水が入る。名水百選の街に青竹手打ちがあり、伏流水の街に在来種のそばがあった。
行くなら、こう考えるといいと思う。
- 車で動く。駅前に良い店があるとは限らない
- 昼に時間をとる。夜まで開いている店ばかりではない
- 酒は期待しない。そのぶん、粉に集中できる
- 1軒に絞らない。佐野だけでも青竹手打ちが2軒あって、まったく違う
まだ全部は見ていない。この県には、行っていない店がたくさんある。
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