数年前、毎年冬になると、この街で数日を過ごしていた時期があった。
佐野である。
そのあいだ、佐野ラーメンをよく食べた。どこで食べても、大概おいしかった。
ただ、行けなかった店がひとつある。

場所が離れている、というだけの理由
「麺屋ようすけ」は、当時から人気店だった。名前も知っていた。
それでも行かなかった。理由は単純で、場所が離れていたからである。
これは大した話ではないように見えて、実はけっこう大きい。用があってその街にいる人間は、街を選べない。滞在している場所の周りで食べる。それ以上に動く時間も、動く理由もない。
その街にいることと、その街を歩けることは、別のことだ。
春に来た
写真の記録を並べたら、こうなった。
| 回 | 日付 | 曜日 | 滞在した時間帯 |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 2023年5月15日 | 月 | 13時25分〜13時30分 |
| 2回目 | 2024年4月15日 | 月 | 13時17分〜13時21分 |
2回とも春である。
冬にだけ来ていた街に、春に来ている。ついでに言うと、2回とも月曜で、2回とも13時台の遅い昼で、2回とも15日だった。狙ってはいない。
行ったのは佐野新都市店のほう。東北自動車道の佐野藤岡インターを降りて市街方向へ進んだあたりで、アウトレットやイオンモールの近くである。
この立地が、そのまま答えになっている。用があって寄る場所ではない。わざわざ来て、寄る場所だ。
佐野ラーメンは、水の話でもある
まず、澄んだほうの一杯から。
底が見える。スープの向こう側に丼の模様が透けている。そこに平打ちの縮れ麺が沈んでいる。チャーシュー、ナルト、ネギ、青菜。飾りは少ない。
佐野ラーメンについて、少し書いておく。
栃木県佐野市を中心に食べられているご当地ラーメンで、青竹打ちの平打ち麺が特徴である。青竹に脚をかけ、竹の下に生地を置いて、体重をかけて延ばす。水分量の多い多加水麺で、やわらかさの中に弾力がある。スープは淡麗の醤油が基本。ルーツは大正時代、中国の料理人が青竹打ちを伝えたとされる。
そして水である。
佐野市には、日本名水百選に選ばれている出流原弁天池の湧水がある。佐野の水はクセがなくまろやかで、スープに向いているといわれる。
私が「佐野は水がキレイだから、澄んだスープに平打ち麺がすっきりとして非常においしい」と感じていたのは、気のせいではなかった。
麺屋ようすけは、店内の製麺室で毎日、青竹で麺を打っている。
そこに背脂を足すと、別の食べ物になる

同じ日の、もう一種類。
水面が背脂の粒で埋まっている。さっきの透明なスープと同じ店の、同じ厨房から出てきたものとは思えない。海苔が1枚、半熟の味玉が半分。
澄んだほうは安定している。佐野ラーメンとはこれだ、という顔をしている。
背脂のほうは、こってりする。そして、そのこってりが嫌ではない。麺が平打ちで水分を含んでいるぶん、脂を持ち上げすぎない。すっきりした土台があるから、上に何を乗せても崩れないのだと思う。

こってりしたスープには、ほうれん草が合う。これは後から分かったことで、翌年はトッピングとして頼んでいる。
佐野の餃子は大きい

餃子が大きい。
佐野で餃子を頼むと、大概これくらいの大きさで出てくる。焼き目がしっかりついて、皮に厚みがある。
そして3個から頼める。
これがありがたい。ラーメンを1杯食べる前提で、餃子を6個も8個も追加すると、たいてい後半が苦しくなる。3個なら、味を確かめて、それでも足りなければまた頼めばいい。
皿には店名が入っている。この皿で出てくると、なんとなく背筋が伸びる。
「どこも大概おいしい」街で、人気店になるということ
ここで、冬の話に一度戻る。
佐野で何軒か食べて、私が思っていたのは「どこの店も大概おいしい」ということだった。これは褒め言葉のつもりで書いている。外れが少ない。
だが、外れが少ないというのは、店にとっては厳しい話でもある。全体の水準が高い街では、普通においしいだけでは目立たない。
その中で人気店になっている、というのはどういうことか。麺屋ようすけを2回食べて、私なりの答えが出た。
基本を外さないまま、幅がある。
澄んだ一杯は、佐野ラーメンの型そのものである。ここで奇をてらっていない。そのうえで、背脂を足した一杯が別の顔で立っている。型を守る店と、崩す店は、たいてい別の店だ。それが同じ厨房から出てくる。
「どこも大概おいしい」街で選ばれるのは、上手い店ではなく、選択肢を持っている店なのだと思う。
2024年4月15日

1年後、もう一度来た。
この日のスープは白っぽかった。海苔が2枚、ほうれん草がたっぷり、ネギ、チャーシュー。

背脂のほうも記録に残っている。海苔と味玉とほうれん草。平打ちの麺が、スープの下からよく見える。
正直に書いておくと、この日にどの品名を頼んだのか、私は覚えていない。写真から読み取れるのは、白いということと、背脂が浮いているということだけである。だからこの記事に商品名は書かない。

餃子も頼んだ。この日も3個。
本店には、1時間並んだ
写真はないが、本店にも1回だけ行っている。
東武佐野線の田島駅のそばにある、こちらが本店である。
1時間待った。
待って、食べた。それだけの話なのだが、書いておきたいのは待ったこと自体ではない。
冬にこの街にいた頃の私には、1時間並ぶという選択肢が存在しなかった。昼に1時間を使うという発想がなかった、と言ってもいい。行列を見たら、たぶん別の店に行っていた。
並べるというのは、時間を持っているということである。
研究員の結論
また行くか:行く。何度でも行く。
この店の何が良かったかというと、澄んだ一杯と背脂の一杯が、同じ店で成立しているところだった。
佐野ラーメンの土台はすっきりしている。水がきれいで、麺が多加水で、スープが淡麗。その土台がしっかりしているから、背脂を足しても、海苔を足しても、ほうれん草を足しても、崩れない。
足せるのは、土台があるからだ。
そして、この店にたどり着くまでに数年かかった理由も、はっきりしている。私が街を選べる側にいなかったからである。
向いているのは、車で来られる人。そして遅めの昼に時間を取れる人。私は2回とも13時台に入っている。
この街には、まだ行っていない店がたくさんある。冬にこの街にいた頃、私はそれを知らなかった。
店舗情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 青竹手打ちラーメン 麺屋ようすけ 佐野新都市店 |
| 所在地 | 栃木県佐野市高萩町(佐野藤岡ICから市街方向/アウトレット・イオンモール佐野新都市の近く) |
| 特徴 | 店内の製麺室で毎日、青竹手打ち。鶏ガラと豚のスープ |
| 頼んだもの | 澄んだスープのラーメン/背脂入りのラーメン/餃子/ほうれん草/ライス |
| 訪問日 | 2023年5月15日(月)13:25〜13:30ごろ/2024年4月15日(月)13:17〜13:21ごろ |
| 本店 | 東武佐野線・田島駅のそば。別に1回訪問(1時間待ち・写真なし) |
※アルコールは頼んでいません。呑み歩き研究所を名乗っていますが、この記事に酒は出てきません。
※商品名は記載していません。筆者が控えておらず、写真からも確定できないためです。見た目の事実だけを書いています。
※価格は掲載していません。筆者が控えておらず、記憶で書くと不正確になるためです。
※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前にご確認ください。
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※記事中の飲食物・店内の様子はいずれも筆者が実際に訪問して見聞きしたものです。訪問は2023年5月と2024年4月で、本記事の公開時点から2年から3年前にあたります。飲食代はすべて筆者が自分で支払っています。佐野ラーメンおよび出流原弁天池湧水に関する記述は、佐野市観光協会その他の公開情報によります。