うどんが、やかんに入って出てくる店がある。
福岡遠征の初日、一軒目の鯖鉄を出たのが19時過ぎ。まだ帰る気にはならない時間で、そのまま二軒目に向かった。博多・櫛田神社のそばにある「あかちょこべ」。暖簾をくぐったのは20時すぎである。
看板は、うどんと酒。刺身で一軒やってきた腹に、うどんを入れて締める。悪くない組み立てだと思った。
一軒目のあとに、うどんの店へ

赤提灯が軒下に一列。看板には「うどんとお酒 博多あかちょこべ」、その脇に「酒 TIME」と書かれた丸い提灯が下がっている。ビルの1階だが、正面だけは木の引き戸と格子窓でこしらえてあって、石段を二段上がって入る構えだ。夜に見ると、提灯の赤が壁まで染めていた。
博多はうどんの街である。うどんとそばは博多が発祥だという説があり、櫛田神社から歩いてすぐの承天寺には「饂飩蕎麦発祥之地」の碑が立っている。その櫛田神社のそばで、うどんを看板に掲げている店だ。立地からして本気度が伝わってくる。
店の基本情報とアクセス
正式店名は「博多あかちょこべ」。福岡県福岡市博多区冷泉町7-10、櫛田神社のすぐそばにある。地下鉄空港線・中洲川端駅から徒歩5分、七隈線・櫛田神社前駅から徒歩5分、箱崎線・呉服町駅から徒歩6分。中洲からも歩いて行ける距離だ。
2009年4月の開業で、昼はうどん屋、夜はうどんも出す居酒屋、という二毛作の店である。
看板メニューは「釜あげ ずぼら」。これがやかんで出てくるうどんだ。麺は「古式胚芽うどん」と呼ばれる、小麦の胚芽を練り込んだ細めのもの。この麺の話は、後で書く。
頼んだもの
一軒目で飲んできている二軒目の注文である。方針は、遠征のときと同じで九州にちなんだものを頼む。ただし量はほどほどにする。
焼酎ロックと、友人の果実酒

二軒目でも、一杯目は焼酎ロックにした。九州にいるあいだ、私はほぼこれしか飲んでいない。出てきたのは粉引きのような肌の陶器のカップで、なかに大きめの氷が入っている。ガラスより手のなかで落ち着くし、口をつけたときに縁の厚みが酒の輪郭を変える。
友人は果実酒。白く濁った液体がグラスに入って並んだ。二人で違うものを頼むと、卓の上の景色が締まる。一軒目からずっと飲んでいる流れなので、ここでビールに戻る気にはならなかった。
胡麻さば

メニューに胡麻さばがあった。だから頼んだ。
一軒目の鯖鉄でも胡麻鯖を食べている。同じ晩に、同じ料理を二度頼んだことになる。ただこれは無計画ではない。「九州で胡麻鯖は外れなし」という現地の友人の説を、私はこの遠征で検証しているところだった。サンプルが増えるのは望むところである。
出てきたのは、つけだれを別添えにしたかたち。わさびと大葉、小ねぎ、そして胡麻。鯖を先にたれにくぐらせてから食べる。一軒目の胡麻鯖は最初から和えてあったので、同じ名前の料理でも店ごとに手つきが違うのだとわかった。結果は、こちらも外れなし。検証は2店連続で支持された。
→ 博多 鯖鉄|博多駅から徒歩8分、看板の「五島鯖鉄引き」と胡麻鯖を食べてきた
やかんうどん、並み盛り

そして本命。やかんに入ったうどんである。
卓に置かれたのは、真鍮色のやかんと、つゆを張った椀がふたつ。写真で見て「映える」と思っていたが、実物のほうが強かった。蓋を外した口をのぞくと、白っぽい麺が湯のなかで泳いでいる。持ち手は黒く、胴は使い込まれた金色で、道具として一切ふざけていない。盛りは並み盛りにした。

食べ方はこうだ。やかんから麺を引き出す。箸で挟んで、そのまま持ち上げる。湯を切りながら引き上げると、うっすら透けた麺が湯気を上げてついてくる。この持ち上げている数秒がいちばん絵になるのだが、絵になっている場合ではない。熱いので早く食べたい。

持ち上げた麺を、もう片方の手に持ったつゆの椀にくぐらせる。熱々である。釜から上げたままの温度で食べさせる仕組みなので、最後の一本まで冷めない。この一連の動作が楽しくて、うどんを食べているという以上の何かをやっている気分になる。
肝心の味だが、美味かった。熱いというのはそれだけで味の一部だと思う。
うどんのコシは、強すぎず弱すぎず
これが、この店でいちばん考えたことである。
麺のコシは、強すぎず弱すぎなかった。噛み切れないほど硬くもなく、頼りなく崩れるわけでもない。歯を入れるとちゃんと返してくるが、そこで踏ん張りすぎない。関東で食べる讃岐系の、噛むと跳ね返してくるような麺とは明らかに別の設計である。
これが九州のうどんなのだろう、と思った。
あとで調べたところ、この店の麺は「古式胚芽うどん」というもので、小麦の胚芽を練り込んだものだという。しかも、昔の博多の人が食べていたうどんを目指して開発された麺なのだそうだ。
それを知って、納得した。あの歯当たりは、現代のコシ競争から降りた結果ではなく、最初からそこを狙って作られたものだったということになる。硬さで主張するのではなく、つゆをくぐらせて食べるための麺なのだ。
コシの強さを競うのが正解ではない、という食べ物がある。博多のうどんはそちら側の系譜にいるらしい。私は讃岐の麺も好きだが、この日のうどんに物足りなさはまったくなかった。
二軒目の腹の残量について
並み盛りを食べ終えて、もう少し入るな、と思った。
だが二軒目である。ここで大盛りに行って満腹になると、この日はここで終わる。呑み歩きは一晩の総量で決まるので、一軒あたりで使う容量を管理したほうが結果がよくなる。だからほどほどでやめた。
これは負けではない。次に来たときに大盛りを頼む理由が残る、という考え方をしている。
はしごの二軒目に使う人への申し送り
同じ動線を辿る人のために、この日わかったことを整理しておく。
まず時間。夜は18:00から23:30まで開いている。一軒目を19時前後に出て二軒目として入るには、ちょうどいい枠だ。ただし日曜は11:30〜14:00の昼のみで、夜はやっていない。遠征の日程が日曜にかかる人は、昼に組み込む必要がある。
次に場所。中洲川端駅から徒歩5分で、中洲からも歩ける。中洲や西中洲で呑む夜の二軒目・三軒目として無理のない距離にある。逆に、櫛田神社や承天寺を昼に歩いた流れで、昼のうどんとして入る使い方もできる。
最後に注文。うどんは酒の締めとしても成立するが、盛りの選択だけは先に決めておいたほうがいい。はしごの何軒目でここに来るのかで、並みか大盛りかが変わる。私は並みでちょうどよかった。
研究員の結論
また行くか:行く。次は大盛りだ。
やかんで出てくるうどんは、見た目の面白さだけの店ではなかった。熱いまま食べさせるための道具として、やかんはきちんと機能している。そして麺は、コシで押してこない九州の設計だった。
向いているのは、博多・中洲で呑んだあとに炭水化物で締めたい人。そして、讃岐とは違ううどんの正解を一度確かめてみたい人。刺身と焼酎で一軒やってから、うどんで締める——この組み立ては、福岡遠征の型として使えると思う。
胡麻鯖の検証も、この店で2店目の支持を得た。九州で胡麻鯖は、いまのところ本当に外れがない。
この遠征を含むまとめ記事
この店は鯖鉄からのはしごで、同じ晩の2軒目だった。この遠征で入った3店は、こちらにまとめてある。
→ 福岡遠征の呑み歩き3店まとめ|博多駅・櫛田神社・西中洲を歩いた記録【2026年7月】
この2軒をはしごした翌朝は、篠栗町の焙煎所でコーヒーを飲んでいる。酒の出てこない記録だが、同じ遠征の続きにあたる。
→ 篠栗珈琲焙煎所|3年空けて2度訪ね、まったく同じ2杯を頼んでいた。涅槃像のあとのコーヒー
店舗情報
| 項目 | 内容 |
| 店名 | 博多あかちょこべ |
| 住所 | 福岡県福岡市博多区冷泉町7-10 |
| アクセス | 地下鉄空港線 中洲川端駅から徒歩5分/七隈線 櫛田神社前駅から徒歩5分/箱崎線 呉服町駅から徒歩6分 |
| 看板メニュー | 釜あげ ずぼら(やかんで出てくるうどん) |
※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前に必ず店舗にご確認ください。
※記事中の料理・ドリンクはいずれも筆者の訪問時に実際に注文したものです。メニュー・価格は変わることがあるため、最新の情報は店舗にご確認ください。