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篠栗珈琲焙煎所|3年空けて2度訪ね、まったく同じ2杯を頼んでいた。涅槃像のあとのコーヒー

篠栗珈琲焙煎所のアイスコーヒーとエスプレッソが並んだテーブル。2026年

前の晩、私は博多で2軒はしごしていた。1軒目で鯖の刺身と胡麻さばを食べ、2軒目でも胡麻さばを食べ、そのまま気持ちよく酔って宿に帰った。

その2軒については別に報告している。1軒目が博多駅前の鯖鉄、2軒目が櫛田神社前の博多 あかちょこべである。

その翌朝、私は巨大な寝釈迦の前に立っていた。

南蔵院の釈迦涅槃像。曇り空の下、背後に緑の山が迫る
南蔵院の釈迦涅槃像。この日は曇りだった

福岡県糟屋郡篠栗町、南蔵院の釈迦涅槃像である。曇っていた。像の背後には山の緑がそのまま迫っていて、広い石畳には人がまばらにいるだけだった。前夜の酒はもう抜けている。この日は、朝から一滴も飲んでいない。

そして涅槃像を見たあと、私は同じ篠栗町の中にあるコーヒー屋に向かった。篠栗珈琲焙煎所という。

目次

この報告には、酒が一滴も出てこない

先に断っておく。この記事には酒が出てこない。ビールもハイボールも焼酎も、一杯も飲んでいない。飲んだのはアイスコーヒーとエスプレッソだけである。

呑み歩き研究所と名乗っておきながら何の報告なのか、と思われるかもしれない。私もそう思った。それでも書くことにしたのは、呑み歩きをする人間にも、酒を飲まない時間は必ずあるからだ。旅先の午前中がまさにそれで、この時間にどこへ入るかで、その日の後半の機嫌がわりと決まる。

前夜に2軒はしごした翌日の午前中というのは、体は動くが胃はまだ本調子ではない、という中途半端な状態である。そこに何を入れるか。私の場合、答えはコーヒーだった。

豆を煎っているところが、そのまま店になっている

店に入ると、壁に黒い切り文字で店名が出ていた。

篠栗珈琲焙煎所の店内。壁に黒い切り文字の店名サインと木のルーバーのカウンター
店内のサイン。奥に焙煎の設備が見える

木のルーバーを張ったカウンターの上に、小さな盆栽がひとつ置いてある。壁は一面の塗り壁で、余計なものが貼られていない。奥の部屋が見通せるようになっていて、そこに焙煎の設備らしいものが見えた。

この店は名前のとおり、店内で豆を煎って、挽いて、出してくれる。焙煎所がそのまま客席とつながっている造りで、飲んでいるコーヒーがどこで煎られたのかが、座ったまま目で確認できる。「自家焙煎」と書いてある店は世の中にいくらでもあるが、焙煎機のある部屋と自分のテーブルが同じ建物の中でつながっている店は、そう多くない。

香りについて、正直に書いておく。私が座ったのは焙煎機から離れた席で、豆の焼ける匂いが立ちこめていた、というほどのことはなかった。ただ、店に入った瞬間の空気は、たしかにコーヒー屋のそれだった。

3年空けて、まったく同じものを頼んでいた

さて、ここからがこの記事の本題である。

私はこの店に2回来ている。1回目が2023年8月7日、2回目が2026年7月18日。ちょうど3年空いている。1回目のときはこの店ができてまだ数か月という頃だった。

そして写真を並べて、自分でも笑ってしまった。

篠栗珈琲焙煎所のアイスコーヒーとエスプレッソが並んだテーブル。2026年
2026年7月18日。アイスコーヒーとエスプレッソ

これが2026年。丸みのあるタンブラーに入ったアイスコーヒーと、黒い釉薬の陶器に入ったエスプレッソ。

そして、こちらが2023年である。

篠栗珈琲焙煎所のアイスコーヒー。窓の外は一面の緑。2023年
2023年8月7日のアイスコーヒー。窓の外は緑だった
篠栗珈琲焙煎所のエスプレッソ。黒い釉薬の陶器カップとソーサー。2023年
2023年8月7日のエスプレッソ。器も3年後と同じだった

同じである。 グラスの形も、黒いカップとソーサーも、注文の中身も、何ひとつ変わっていない。3年空けて、別の季節に、別のカメラで撮っているのに、写っているものが同じなのだ。

しかも私は、2回目に注文するとき「前もこれを頼んだな」と思った記憶がない。メニューを見て、そのつど選んで、結果的に同じところに着地している。

なぜ同じものになるのか

自分なりに理由ははっきりしている。

私はコーヒーに、コクと苦味を求めている。 軽やかで酸味のあるものは好まない。近年のスペシャルティコーヒーは明るい酸味を魅力として押し出すものが多く、それが素晴らしいのはわかるのだが、私の舌はそちらに動かない。

だからメニューを開いても、自分の手が伸びる範囲は最初から狭い。深く濃いものを探す。アイスコーヒーとエスプレッソというのは、その条件にいちばん素直に当てはまる2つだった。

つまり私は冒険をしていない。好みがはっきりしている人間は、選択肢の多い店でこそ同じものを選ぶ。 3年空いても着地点が同じだったのは、店が変わらなかったからではなく、私が変わらなかったからである。

これは酒でも同じことをやっている自覚がある。初めての店でとりあえずビールを頼み、二杯目でだいたい同じ方向へ行く。呑み歩きの記録を積み上げてきて、自分の注文の癖が写真の上ではっきり可視化されたのは、この店が初めてだった。

定点観測というのは、店を観測しているようでいて、実は自分を観測している。 そのことに、この2枚を並べて気がついた。

2026年は、食事も頼んだ

1回目はコーヒーだけで帰った。2回目は昼にかかる時間だったので、食事も頼んでいる。

卵焼きサンド

篠栗珈琲焙煎所のカツハヤシライスと卵焼きサンド。薬味が別に添えられている
カツハヤシライスと卵焼きサンド。皿の左手前に海苔と柚子胡椒

厚く焼いた玉子を白い食パンで挟んだサンドである。断面が層になっていて、玉子の黄色と食パンの白がきれいに分かれている。上に緑のハーブがひと枝のっていた。

面白いのは薬味が別に添えられていたことで、皿に海苔と柚子胡椒、それに生クリームが置かれていた。つまりひと口ごとに味を変えられる。柚子胡椒をつければ辛みと柑橘が立ち、海苔をつければ和の方向に寄り、生クリームをつければ甘い側に振れる。

同じものばかり頼む人間に、皿の上で選択肢を出してくる料理だった。皮肉なものである。

カツハヤシライス

同じ写真の左側がそれだ。白飯の上に濃い色のソースがかかり、カツが並び、脇に葉物のサラダが添えてある。カツはしっかり衣が立っていて、ソースはハヤシらしい濃い茶色だった。

コーヒー屋で出てくる食事としては、想像よりずっと骨のある一皿である。

フレンチトースト

篠栗珈琲焙煎所のフレンチトースト。スキレットに入りアイスとパウダーがのる
フレンチトースト。熱いスキレットに冷たいアイス

小さな鉄のスキレットに入って出てきた。表面はしっかり焼き色がついていて、上に白いアイスがひとつ、その上から茶色いパウダーがかかっている。おそらくコーヒーの粉だろう。断面には気泡が見えていて、卵液がよく染みているのがわかる。

熱い鉄と冷たいアイスという、わかりやすく強い組み合わせだった。

酒を飲まない日にも、店は選べる

呑み歩きを続けていると、「今日は飲まない」という日をどう過ごすかが、意外と難しくなってくる。飲まないなら店に入る理由がない気がして、コンビニでコーヒーを買って歩いてしまう。

ただ、それは少しもったいない。店に入る理由は酒だけではない、というのがこの日の収穫だった。

涅槃像を見て、少し歩いて、静かな店に座って、濃いコーヒーを2杯飲む。それだけで午前中がひとつの体験としてまとまる。夜に博多で飲んだ2軒と、この午前中のコーヒーは、同じ旅の中で等しく記憶に残っている。

これから行く人への申し送り

  • 南蔵院とセットで組むといい。 私は涅槃像を9時45分に見て、11時過ぎに店に着いている。午前中にこの2つを片づけると、午後がまるまる空く
  • 酸味の軽いコーヒーが好きな人ほど、私の注文を真似しないほうがいい。 私が頼んだのはコクと苦味に寄せた2杯である。スペシャルティコーヒーを出す店なので、明るい味わいのものも選べるはずだ
  • 食事も頼めるので、昼をまたぐ時間に行くのは悪くない。 ただしコーヒーだけで帰っても、まったく居心地は悪くない店だった
  • 写真を撮るなら窓際の席がいい。 2023年に撮ったアイスコーヒーの写真は、窓の外の緑が背景に入ってくれた

研究員の結論

篠栗珈琲焙煎所は、酒を飲まない午前中の受け皿として非常に優秀な店である。 焙煎の現場と客席が地続きになっていて、コーヒーがどこから来たのかが目に見える。食事も出るので、滞在時間を自分で決められる。

そして私にとってこの店は、もうひとつの意味を持ってしまった。3年空けて2度訪ね、まったく同じ2杯を頼んでいたという記録が残ったからだ。人間の好みというのは、自分で思っているよりずっと動かない。

次に行く機会があれば、今度こそ違うものを頼んでみようと思う。思うだけで、たぶんまた同じものを頼む。

同じことを、中目黒でもやっていた。2年近くかけて3回通い、3種を飲み比べて、結局いちばん最初に出された一杯に戻ってきた。好みが動かないというのは、どうやら店を選ばない。

スターバックス リザーブ ロースタリー 東京|エスプレッソマティーニを3回、3種飲み比べて最初の一杯に戻った【中目黒】

なお、この篠栗の午前をはさんだ2026年7月の福岡遠征は、酒のほうもまとめてある。

福岡遠征の呑み歩き3店まとめ|博多駅・櫛田神社・西中洲を歩いた記録【2026年7月】

店舗情報

項目内容
店名篠栗珈琲焙煎所
住所福岡県糟屋郡篠栗町彩り台3-18
開業2023年3月(同年4月にグランドオープン)
最寄りJR篠栗線の各駅から車。南蔵院とあわせて回りやすい

※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前に必ず店舗にご確認ください。

※筆者の訪問は2023年8月7日と2026年7月18日です。記事中の飲みもの・料理はいずれも訪問時に実際に注文したものですが、メニューは現在と異なる可能性があります。上表は2026年7月時点で確認した情報ですが、お出かけの前に必ず店舗にご確認ください。南蔵院の涅槃像の参拝時間も変更される場合がありますので、あわせてご確認ください。

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