店名が、問いになっている。
「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」——最後の句点まで含めて店名である。
4回行った。そして写真を並べて、自分でも驚いた。

4回とも、同じ角度で撮っていた
写真を4枚並べると、こうなる。
- 黒いトレイを真上から見下ろしている
- 左につけつゆの丼。右に蕎麦の丼
- 手前に割り箸
4回とも、まったく同じ構図だった。
意識して揃えたわけではない。1年半のあいだに、別々の日に、別々の気分で撮っている。それでも同じ位置から撮っていた。
私はこの店で毎回同じものを頼んでいるのだが、それだけではなかった。
同じ見方をしていた。
好みというのは、口の中だけの話ではないらしい。何を美味そうだと思うかと、どの角度が美味そうに見えるかは、たぶん同じところから来ている。
決まって鶏そば

頼むものも決まっている。鶏そばである。
ピリ辛のつゆに、鶏肉。胡麻がたっぷり。そして蕎麦のほうには海苔が山になって乗っている。その下にネギともやし。
生卵は必須。これを入れると味が変わる。
この店の看板は肉そば——甘辛く煮込んだ牛肉のほう——なのだが、私はそちらを頼んでいない。鶏のほうに固定されている。
これは「蕎麦界の二郎」だった
調べてみて、腑に落ちた。
この店を運営しているのは株式会社のみもの。という会社である。『カレーは飲み物。』『焼きそばは飲み物。』『ハンバーグは飲み物。』——同じ流儀の店名が並ぶ。五反田店はのれん分けの店舗で、本店は池袋にある。
そして公式サイトに、店が自分でつけているハッシュタグがこう並んでいる。
「自家製の極太田舎蕎麦」「蕎麦界の二郎」「ワシワシ食べる」「生卵で味変」「特製ラー油入り」
自分で「蕎麦界の二郎」と言っている。
隠していない。むしろ宣言している。この潔さは、店名の時点ですでに出ていた。
器が変わっていた

写真を並べて気づいたことがもうひとつある。
2023年5月の1回目だけ、器が黄色い。
7月に行ったときには白い器になっていて、それ以降はずっと白のままである。
私は覚えていなかった。言われれば「そうだったかもしれない」という程度で、記憶には残っていない。
写真は、私が見ていないものまで撮っている。
なぜ蕎麦にラー油を入れるのか
店名の問いに、店が自分で答えている。公式サイトの文章にこうあった。
「日本蕎麦はつゆにちょんと漬けて啜るのが粋な食べ方」が頭をよぎったが、奥歯を跳ね返す麺の弾力に「蕎麦を超えた何か」を感じて圧倒された。
そういうことだと思う。
蕎麦には「粋」という言い方がついて回る。つゆにちょんとつけて、噛まずに飲み込む。あれが正解ということになっている。
この店は、その正解のほうを疑っている。
ラー油を入れるのは、辛くするためではない。「粋」という食べ方から蕎麦を引き剥がすためなのだと思う。ちょんとつけて啜れる相手ではなくなる。たっぷりつけて、しっかり噛むしかなくなる。
私はその食べ方が好きだ。

太めで、色の濃い蕎麦。綺麗な水でツルッと食べる蕎麦ではない。噛む蕎麦である。
足利では、真逆の蕎麦を食べていた
ここで、自分でも笑ってしまう事実がある。
私はこの夏、栃木県足利市の蕎麦屋について記事を書いた。そこの蕎麦は在来種で、いま栽培されている蕎麦の99.9%以上が品種改良された品種であるうち、その残りにあたるものだった。石臼で挽いて、つなぎを使わず、添加物も入れない。全国新そば会という、老舗御三家をトップにした組織にも入っている。
日本古来の蕎麦である。
そして私は、同じ口で「蕎麦界の二郎」を食べている。
| 足利の在来種 | 五反田のラー油 | |
|---|---|---|
| 蕎麦 | 品種改良される前の在来種 | 自家製の極太田舎蕎麦 |
| つゆ | 江戸から続く流儀 | 特製ラー油入り |
| 食べ方 | つゆにちょんと漬ける | たっぷりつけて、しっかり噛む |
正反対である。
どちらかが本物で、どちらかが偽物、という話にはしたくない。私は両方好きなのだ。
そして両方に共通していることが、ひとつだけある。
どちらも「噛む蕎麦」だった。
足利のは、つなぎがないので短く切れる。噛まないと味が出ない。五反田のは、極太で弾力があるので噛むしかない。入口はまったく違うのに、口の中でやっていることは同じだった。
つるつると喉を通していく蕎麦のほうが、むしろ私には縁がないのかもしれない。
同じ系統の店を、ほかにも回っている
この手の蕎麦が好きなので、五反田だけではない。
新橋にも、有楽町にも、同じ系統の店がある。そちらにも行っている。
ただ写真が残っていない。だから店名も書かない。記憶だけで書くと、たぶんどこかを間違える。
この記事に書けるのは、写真が残っている五反田の4回だけである。
昼のピークを外している

記録を見ると、こうなっていた。
| 回 | 日付 | 曜日 | 時刻 |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 2023年5月27日 | 土 | 15時50分 |
| 2回目 | 2023年7月10日 | 月 | 13時15分 |
| 3回目 | 2024年5月14日 | 火 | 14時06分 |
| 4回目 | 2024年11月29日 | 金 | 14時44分 |
4回とも、13時から16時のあいだ。
12時台が一度もない。昼のピークを完全に外している。五反田はオフィスの街だから、12時台は混むのだと思う。
曜日のほうはばらばらで、土・月・火・金。特に法則はない。
ボリュームの話
普通盛りで十分である。
大盛りも食べられると思う。実際そうしたい気持ちになることもある。でも普通盛りで足りる。
海苔が山になって乗っていて、その下に麺があって、つゆには鶏肉が入っている。一食としての満足度が高い。
こういう店は「足りなかったらどうしよう」という不安がない。その安心のぶん、選ぶときに迷わない。
研究員の結論
また行くか:行く。次も鶏そばで、次も普通盛りで。
この店で分かったのは、好みは食べ方だけでなく、見方にも出るということだった。
4回とも同じものを頼んでいたのは、自分でも知っていた。4回とも同じ角度で撮っていたのは、写真を並べるまで知らなかった。
何を美味そうだと思うかと、どの角度から見ると美味そうかは、たぶん地続きになっている。私は毎回、自分がいちばん美味そうだと思う位置に立っていた。
そして足利の在来種と、五反田のラー油。両方好きだと言える自分のほうが、私は気に入っている。
向いているのは、噛む蕎麦が好きな人。そして「粋な食べ方」に縛られたくない人。
次はどこかで、店名の問いをもう一度考えてみたい。
店舗情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。五反田店 |
| 所在地 | 東京都品川区西五反田 |
| 運営 | 株式会社のみもの。(『カレーは飲み物。』などを展開)/五反田店はのれん分け店舗。本店は池袋 |
| 頼んだもの | 鶏そば(普通盛り)+生卵(4回とも同じ) |
| 訪問 | 4回(2023年5月27日/2023年7月10日/2024年5月14日/2024年11月29日) |
| 酒 | 飲んでいません(すべて昼) |
※価格は掲載していません。筆者が控えておらず、記憶で書くと不正確になるためです。
※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前にご確認ください。
※外観の写真はありません。撮っていませんでした。
※メニューの内容は訪問時点のものです。
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※記事中の飲食物・店内の様子はいずれも筆者が実際に訪問して見聞きしたものです。飲食代はすべて筆者が自分で支払っています。店の運営会社・店舗展開に関する記述は公式サイトによります。