栃木県栃木市の太平山に行くと、必ず同じものを頼む。
だんご、焼き鳥、玉子焼き、もりそば、ノンアルコールビール。
4回行って、4回とも同じである。自分でも不思議だったのだが、調べてみたら、この組み合わせには理由があった。

謙信平の茶屋
太平山(おおひらさん)は栃木市の中心部から西へ4kmほど、標高341mの山である。太平山県立自然公園になっていて、山上には太平山神社がある。
その中腹に謙信平(けんしんだいら)という場所がある。
ここからは関東平野が一望できる。晴れて空気が澄んだ日には、東京スカイツリーや東京タワー、富士山まで見えるという。
道沿いに茶屋が並んでいて、そのひとつが山田家である。
店の外に席がある。柵の向こうは、そのまま平野になっている。
焼き鳥・玉子焼き・だんご

この土地には「太平山三大名物」と呼ばれるものがある。
焼き鳥、玉子焼き、だんご。
ラーメン屋でも、そば屋でも、居酒屋でもない。この3つがセットで名物になっている。
私はこれを、何度も食べておきながら、なぜこの3つなのかを考えたことがなかった。焼き鳥と玉子焼きは鶏つながりだとして、そこにだんごが入ってくる理由が分からない。甘いものと辛いものが1枚の品書きに並んでいる。
調べてみて、腑に落ちた。
献立ではなく、奉納だった
焼き鳥と玉子焼きの由来はこうである。
夜に鳴く鶏は不吉な知らせをするという言い伝えがあった。そこで、その鶏を太平山神社に奉納した。
奉納された鶏が産む卵を集めて「玉子焼き」に。肉を「焼き鳥」にして供した。これが始まりだと伝えられている。

だんごの由来はこうである。
太平山神社には、五穀豊穣を願って、毎年たくさんの穀類が奉納されていた。その奉納された米を分けてもらい、粉に挽いてだんごにした。これが「太平だんご」になった。
つまり、こういうことだ。
焼き鳥も、玉子焼きも、だんごも、すべて「神社に集まったもの」である。
この3つは、献立ではない。奉納の記録である。
料理人が味の相性で組んだ組み合わせではなく、神社に何が納められていたかの一覧が、そのまま名物になっている。だから甘いものと辛いものが同じ品書きに並ぶ。組み合わせの理由が、味の外にある。
こういう成り立ちの名物を、私は他に知らない。
だんごは、あんこがたっぷり
だんごにはあんこがたっぷりかかっている。串に刺さった団子が、あんこに沈んでいる。
上品な量ではない。皿の上であんこが主役の顔をしている。
奉納された米から始まったという話を知ってから食べると、少し見え方が変わる。この甘さは、五穀豊穣を願った人たちの側から来ている。
焼き鳥は、思っているより肉が大きい

焼き鳥について、書いておきたいことがある。
思っている以上に、肉が大きい。
居酒屋の焼き鳥を想像していると、出てきたときに一瞬止まる。一切れが大きく、串に刺さっている数が少ない。そういう切り方をしている。
タレがしっかりかかっていて、皮の面が照っている。
玉子焼きも美味い。厚みがあって、断面の層が見える。大根おろしが添えてある。注文を受けてから焼いているそうで、たしかに出てくるまでに少し時間がかかる。

そこに、自分で2つ足している

私が頼むのは、この3つだけではない。
もりそばと、ノンアルコールビールを足している。
そばは純手打ちである。わさびが良い。そば猪口と徳利が付いてきて、外の席で、平野を見ながらたぐる。

そしてノンアルコールビール。ここは山の上で、車で来る場所である。飲めない場所だと分かっていて来ている。
呑み歩き研究所を名乗りながら、また酒を飲んでいない記事になった。ただ、この店で酒が飲めないことを、私は不満に思ったことがない。
整理すると、こうなる。
| 頼むもの | 由来 | |
|---|---|---|
| この土地が用意した3つ | 焼き鳥・玉子焼き・だんご | 太平山神社への奉納 |
| 私が足した2つ | もりそば・ノンアルコールビール | 自分の好み |
土地のものを受け取って、自分のものを足す。それを4回とも同じ形で繰り返している。

4回とも月曜日だった
写真の記録を並べたら、気づいたことがある。
| 回 | 日付 | 曜日 |
|---|---|---|
| 1回目 | 2022年11月14日 | 月 |
| 2回目 | 2023年6月19日 | 月 |
| 3回目 | 2023年12月4日 | 月 |
| 4回目 | 2024年11月18日 | 月 |
4回とも月曜である。
狙っていない。そして最近書いた栃木の別の記事を見返したら、そちらも全部月曜だった。
私はこの県に、月曜に来ているらしい。
季節のほうは、秋が3回、初夏が1回。これはなんとなく分かる。この場所は、空気が澄んでいる時期のほうが良いからだ。

謙信平まで歩く
食べたあとは、謙信平まで歩く。
というより、この山は散歩のために来ているようなところがある。食べて、歩いて、また景色を見る。それで半日が終わる。
謙信平という名前には、由来がある。
永禄11年(1568年)9月、上杉謙信と北条氏康が、ふもとの大中寺で和議を結んだ。そのあと謙信が太平山に登り、山上から南に関東平野を見渡して、その広さに驚いた——という伝承から、この名がついたと伝えられている。

紅葉の時期は、特に良い。
真っ赤なモミジの向こうに、太陽と、眼下の平野がある。この写真は12月の初め、午後2時半ごろのものである。
研究員の結論
また行くか:何度でも行く。
この店で私が持ち帰ったのは、名物には成り立ちがあるという当たり前のことだった。
焼き鳥と玉子焼きとだんごが並んでいるのを見て、私はずっと「この土地はこういう組み合わせが好きなのだな」くらいに思っていた。違った。神社に何が集まったか、という話だった。
名物とは、その土地で何が余っていたかの記録なのだと思う。奉納された鶏がいて、奉納された米があった。だから焼き鳥と玉子焼きとだんごになった。誰かが考えた組み合わせではなく、あったものが残った。
そして景色である。
460年ほど前に、武将が登ってきて驚いたという場所で、あんこのかかっただんごを食べている。
驚いた中身は、たぶん同じである。平野が、遠くまで見える。
向いているのは、歩く気のある人。食べるだけなら30分で終わるが、この場所の本体は、そのあとの散歩のほうにある。
店舗情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 太平山 山田家 |
| 所在地 | 栃木県栃木市平井町(太平山・謙信平) |
| 名物 | 太平山三大名物=焼き鳥・玉子焼き・だんご |
| 頼んだもの | だんご/焼き鳥/玉子焼き/もりそば/ノンアルコールビール(4回とも同じ) |
| 席 | 屋外の席あり。関東平野を正面に見る |
| 訪問日 | 2022年11月14日(月)/2023年6月19日(月)/2023年12月4日(月・謙信平)/2024年11月18日(月) |
※価格は掲載していません。筆者が控えておらず、記憶で書くと不正確になるためです。
※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前にご確認ください。
※三大名物の由来は言い伝えです。栃木市の観光情報として公開されているものを要約しました。
※謙信平の由来も伝承です。史実として確定しているものではありません。
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※記事中の飲食物・店の様子はいずれも筆者が実際に訪問して見聞きしたものです。訪問は2022年11月から2024年11月にかけての4回です。飲食代はすべて筆者が自分で支払っています。太平山三大名物および謙信平に関する記述は、栃木市および栃木県の観光情報によります。