町田に着くのが遅くなった。
町田での1軒目は、私の中でほぼ決まっている。匠ダイニングである。ただ、この日は着くのが遅く、昼の部には間に合わない時間になっていた。
さて、どうするか。
よし、開拓しよう。
そう決めた瞬間に、食べたいものはもう浮かんでいた。イカ墨もんじゃである。2か月前に月島もんじゃ もへじ 町田で生まれて初めてもんじゃを食べて以来、すっかりハマっている。
そしてたどり着いたのが、この店だった。

予定が崩れたから、この店に来た
大衆居酒屋 もんじゃ酒場 だしや 町田店。東京都町田市原町田にある。町田駅から歩いてすぐの角地で、建物の二面に看板が出ている。
初訪問である。
行くつもりだった店に行けなかったから、来た。そういう来かたをした店なのに、結果としてこの日いちばん長くいた場所になった。
看板を見上げて、ひとつ気になるものがあった。「今治焼鳥」と縦に書いてある。
このときはまだ、それが何を意味するのか分かっていなかった。
まだ何も焼かれていない鉄板
1軒目なので、飲み放題にした。生ビールが入っているものである。

席に着いて、最初に出てきたのがこれである。
ビールと、まだ何も焼かれていない鉄板。
カウンターの目の前が、そのまま鉄板になっている。ヘラが2本置いてある。
この写真が、この記事のいちばん正直な1枚だと思う。このあと口に入るものは、ひとつの例外もなく、この黒い面の上を通ることになる。
お通しが、鉄板で焼かれて出てきた
お通しは卵焼きだった。
ただし、皿に盛られて出てくるのではない。

目の前の鉄板で、焼いてくれる。
ヘラで巻いて、形をつくって、皿に移してくれる。

出てきたのがこれである。
正直に書くと、焼いてもらいながら私が考えていたのは、「このオペレーションは、混んでいるときに成立するのだろうか」ということだった。
お通しである。全員に出るものである。それを一皿ずつ、目の前で焼くのだ。
その日は空いていた。だから、ありがたく作ってもらった。
空いている時間に入った客の得である。そういう得のしかたもあるのだと思った。
焼鳥が、串で出てこなかった
単品で、ぼんじり、レバー、イカの姿焼きを頼んだ。
出てきたのがこれである。

生である。
串に刺さっていない。皿にも乗っていない。鉄板の上に、そのまま置かれた。
左の白っぽいのがぼんじり、右の赤いのがレバー。奥にイカが横たわっている。
そして、自分で焼く。
看板の「今治焼鳥」を思い出したのは、このときだった。焼鳥といえば串だと思っていたが、この店では串が出てこない。
考えてみれば当然である。目の前に鉄板があるのだから、串に刺す理由がない。
ここでようやく、この店の構造が分かった。
もんじゃ屋だから鉄板がある、のではない。鉄板があるから、全部そこで焼く店なのだ。
お通しの卵焼きも、焼鳥も、イカも、このあと出てくるもんじゃも——この店で口に入ったものは、ひとつ残らず、同じ一枚の鉄板の上を通っている。
もんじゃ、1杯目
もんじゃは3種類頼んだ。
1杯目はツナマヨコーンもんじゃ。

器に山盛りのコーン。そして上に乗っているバターの塊が、とにかく大きい。
小鉢が横に並んでいるのは、刻みニンニクとチーズである。もんじゃにはそれぞれトッピングした。
これを鉄板に広げる。

チーズが溶けはじめている。
トマトが、1枚まるごと消えた
2杯目が本命のイカ墨トマトバジルもんじゃである。
出てきた器を見て、少し笑ってしまった。

トマトが、1枚まるごと立っている。
輪切りにしたトマトが、そのままの厚さで器に刺さっている。その下に真っ黒なイカ墨。イカの切り身。乾燥したバジル。チーズ。
もんじゃの生地というより、何かの盛り付けのようである。
これを鉄板に出して、広げて、焼いた。
11分後がこれである。

跡形もない。
あれだけ立体的だったトマトが、完全に消えている。バジルも見えない。真っ黒な一枚になっている。
そして——美味しい。
イカ墨のコクが、私はいちばん好きだ。
もんじゃは、失敗しない
ここで書いておきたいことがある。
もんじゃは失敗しない。
多少やり方が違っても、順番を間違えても、広げかたが雑でも、最後はもんじゃになる。
さっきのトマトがいい例である。あれだけ形のあったものが、鉄板の上で完全に姿を消して、それでもちゃんと一枚のもんじゃになった。「トマトを潰しすぎた」という失敗が存在しない。
これは考えてみると、なかなかすごいことである。
私はこのブログで、蕎麦の記事をいくつか書いてきた。栃木県足利市の店では品種改良される前の在来種の蕎麦を食べたし、神奈川県秦野市の店では十割蕎麦を食べた。
あちらは失敗ができる料理である。打ちかたひとつ、茹で時間ひとつで別物になる。だから職人が打つ。私が打ったら食べられたものではないだろう。
こちらは失敗ができない料理である。しかも自分で焼く。
そして私は、両方好きなのだ。
一手も間違えられない料理と、どう間違えても成立する料理。どちらが上ということではなくて、この2つは別のことをしている。
出来立てを食べる、以外の選択肢がない
もうひとつ、もんじゃについて。
もんじゃは出来立てを食べる。
これは私の主義でも何でもなくて、目の前が鉄板だから当然である。
焼けたら食べる。冷めるより先に食べる。焼けたタイミングと、食べるタイミングが一致している。
運ばれてくる料理には、どうしても厨房を出てから卓に着くまでの時間がある。数十秒かもしれないが、ある。
鉄板の店には、それがない。
出来立てを食べようと努力しているのではなく、出来立て以外を食べることができない構造になっている。
3杯目だけ、順番が決まっていた
3杯目はたっぷりシラスと大葉香るもんじゃ酒場もんじゃ。店の名前がついている、看板のもんじゃである。

器の中に、赤い干物の具がたっぷり入っている。チーズ、白い身、揚げ玉。
これを鉄板に広げて、焼いた。そして最後にこうなった。

焼き上がった上に、白いシラスと大葉が後から乗った。
焼いていない。
ここだけは順番が動かせないのだと思う。火を通したら、シラスは縮むし、大葉は色も香りも飛ぶ。あの緑と白は、焼かないから残っている。
「失敗しない料理」だと書いたばかりだが、この1杯にだけは、変えられない手順があった。
2時間の記録
写真の記録を見たら、こうなっていた。
| 14時18分 | 店に着く |
| 14時27分 | ビール。鉄板はまだ空 |
| 14時36分 | お通しの卵焼きを焼いてもらう |
| 14時40分 | 生の焼鳥が鉄板に出てくる |
| 15時01分 | もんじゃ①ツナマヨコーン |
| 15時39分 | もんじゃ②イカ墨トマトバジル |
| 16時18分 | もんじゃ③シラスと大葉 |
| 16時26分 | 最後の1枚 |
見て気づいたのだが、もんじゃの間隔がほぼ揃っている。1杯目から2杯目まで38分、2杯目から3杯目まで39分。
意識して測ったわけではない。焼いて、食べて、飲んで、次を頼む。その1周が、この店では40分弱ということらしい。
そしてもんじゃに入るまでに44分ある。ビールと卵焼きと焼鳥で、それだけの時間を使っている。
滞在は2時間8分。飲み放題の時間を、1分も余らせなかった。
呑みすぎたし、食べすぎた。ほろ酔いを通り越した。
研究員の結論
また行くか:行く。次もイカ墨を頼む。
この店で私が持ち帰ったのは、設備がひとつあるだけで、店の全部が決まることがあるということだった。
鉄板が目の前にある。ただそれだけのことで——お通しの出しかたが決まり、焼鳥から串が消え、料理が冷める時間がなくなり、客が自分で焼くことになる。
メニューを工夫した結果ではない。鉄板がそこにあるから、そうなっている。
そして、もんじゃは失敗しない。
自分で焼くことになっても困らないのは、この料理がそういうふうにできているからである。失敗しない料理だから、客に焼かせられる。この順番なのだと思う。
向いているのは、焼くのが面倒でない人。運ばれてくるのを待ちたい日には向かない。
そして、空いている時間に行くこと。あの卵焼きは、たぶん混んでいる日には焼いてもらえない。
同じ店に、2回行ってみた話
立川の寿司酒場に2回行った。307日あけて、39秒違いの同じ時刻に入っていた。そして2回目だけ、メニューを7枚撮っていた。
→ 立川すしわさび|1回目は代表料理を頼む。2回目から攻略が始まる
店舗情報
| 店名 | 大衆居酒屋 もんじゃ酒場 だしや 町田店 |
| 所在地 | 東京都町田市原町田4-7-18 ナガオカビルディング1〜2F |
| アクセス | JR横浜線・町田駅から徒歩2分/小田急小田原線・町田駅から徒歩7分 |
| 頼んだもの | 飲み放題(生ビールあり)/お通しの卵焼き/ぼんじり/レバー/イカの姿焼き/ツナマヨコーンもんじゃ/イカ墨トマトバジルもんじゃ/たっぷりシラスと大葉香るもんじゃ酒場もんじゃ |
| トッピング | 刻みニンニク/チーズ |
| 訪問日 | 2026年8月7日(金)14:18〜16:26ごろ(初訪問) |
※価格は掲載していません。※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前に必ず店舗にご確認ください。