何度も通り過ぎている店だった。
町田駅の北口から歩いて3分。もんじゃの看板が出ている。入ったことはなかった。
理由ははっきりしている。もんじゃになじみがないからである。
こち亀で知っていた。食べたことはなかった
もんじゃという食べものを、私は知っていた。
こち亀に出てきたからである。
漫画の中で、鉄板の上でヘラを使って食べているのを見た。そういう食べものが東京の下町にあるらしい、ということも知っていた。
ただ、食べたことはなかった。
言っても私は関東の人間である。それなのに、もんじゃに触れてこなかった。
知っているのに、食べたことがない。名前も、見た目も、食べ方も知っているのに、口に入れたことだけがない。そういう料理が、自分の生活圏にずっとあった。
そして——知らないから入らない。入らないから知らないまま。この循環が、私にこの店の前を何度も通り過ぎさせていた。
循環を破ったのは、YouTubeとほろ酔いだった
きっかけは2つある。
ひとつは、YouTubeでもんじゃを見たこと。誰かが焼いているのを見て、一度試してもいいかなと思っていた。
もうひとつは、酒である。
この日の1軒目は匠ダイニングだった。町田での1軒目は、私の中でほぼ決まっている。
そこでほろ酔いになって、いい気分で外に出た。そしてやっぱり通りがかったのが、このもんじゃの店だった。
入ってみた。
素面のときは何度も通り過ぎたのに、酔ったら入れた。判断が鈍ったのではなく、たぶん、いつもの言い訳が出てこなかっただけだと思う。
知らない料理は、知っている味から入る
席に着いて、メニューを見た。
もんじゃのことは何も知らない。何が定番で、何が変わり種なのかも分からない。
そこで私が使った手がかりは、これだった。
私はイカ墨スパゲッティが好きである。
もんじゃのことは分からない。でもイカ墨のことなら知っている。あの黒くて、磯の香りがして、コクのある味を、私はすでに好きだと知っている。
だからイカ墨もんじゃにした。

出てきた器がこれである。
イカがゴロゴロ入っている。上にバターの塊。刻んだネギ。そして黒いイカ墨。白い粒も見える。
初めての料理を頼むとき、人はメニューを全部読んで一番人気を選ぶ——わけではない。自分の中にすでにある座標を使う。
知らない場所に入るときの、いちばん確実なやり方だと思う。
焼いてくれた
そして、ここが大事なところである。
焼いてくれた。

具を鉄板で刻んで、丸く土手をつくって、その中に生地を流し込む。
もんじゃの正統な作り方である。そんなことは、私は知らない。
もし自分で焼けと言われていたら、たぶん土手が崩れて、鉄板の上に汁が流れていっただろう。

平らに広げて、チーズを散らして、仕上げてくれた。
店員さんが親切だった。
あとで調べて分かったのだが、これはこの店の方針だった。
もへじは「焼きはスタッフが完全に行う」というスタイルを掲げている。理由は——もんじゃ初心者でも、最高の状態で食べられるように。
私は、まさにその初心者だった。
うますぎる
食べた。
うますぎる。
イカ墨のコクが、そのまま鉄板の上にある。イカがゴロゴロ入っていて、噛むたびに出てくる。
あとで知ったのだが、もへじは明治4年創業の、築地の水産仲卸の直営だという。創業150年の魚屋がやっている。だから魚介がこれだけ入る。
イカ墨もんじゃは、店の名物のひとつでもあった。お米を入れてリゾット風にするのが特徴だそうで、あの白い粒はそれだったのだと思う。
何も知らずに、知っている味を手がかりに選んだら、店の看板に当たっていた。
お好み焼きも頼んだ

お好み焼きも好きなので、頼んだ。
同じ鉄板の上に、ソースのかかったお好み焼きと、黒いイカ墨もんじゃが並んでいる。
粉ものが2つ。もう完全に、そういう店の食べ方である。
この写真を撮った時点で、私はもんじゃに入門し終えていた。
何を飲んだか、覚えていない
正直に書いておく。
お酒は何を飲んだのだろう。
覚えていない。1軒目でほろ酔いになって、ここでさらに飲んで、しっかりと酔っていた。
ただ、いい気分で帰れた。
覚えていないことを覚えていないと書くのは、記録としては情けない。ただ、味は覚えている。イカ墨のコクは、2か月経ったいまでも思い出せる。酒の銘柄だけが残らなかった。
また来るかは、わからない
この店を出るときに思ったことを、そのまま書く。
またこの店に行くかはわからない。
でも、もんじゃは行くと思う。
自分でも、書いていて少し変な感想だと思う。良かったのなら、また来ればいい。
でもこのときの私が持ち帰ったのは、この店の記憶ではなく、もんじゃという選択肢そのものだった。
店ではなく、ジャンルに火がついた。
そして2か月後、私は自分で焼いていた
この記事には続きがある。
2026年8月7日。この日のちょうど2か月後、私は同じ町田の、別のもんじゃの店にいた。
もんじゃ酒場 だしやである。
そこでもイカ墨もんじゃを頼んだ。というより、「最近ハマっているイカ墨もんじゃが食べたい」という理由で、その店に入った。
そしてその店では、自分で焼いた。焼鳥まで生のまま鉄板に出てきて、自分で焼いた。
焼いてもらった店から、自分で焼く店へ、2か月で移動していた。
これは自分の努力でも何でもない。最初の店が、初心者を焼かせない設計だったからである。
もし1軒目が「自分で焼いてください」という店だったら、たぶん土手を崩して、汁を流して、「もんじゃはよく分からない」で終わっていた。
入口が用意されていたから、次に進めた。
研究員の結論
また行くか:この店に行くかは、正直わからない。ただ、もんじゃには行く。
この店で私が持ち帰ったのは、入口の設計が、その後を決めることがあるということだった。
もんじゃを知らない客を、焼かせない。それは手抜きの逆で、初回で失敗させないための判断である。そして初回で失敗しなかった客は、次に別の店で自分で焼く。
入門させる店と、遊ばせる店は、役割が違う。
そしてもうひとつ。知らない料理は、知っている味から入ればいい。
私はもんじゃを知らなかったが、イカ墨は知っていた。その1点だけを頼りに頼んで、外さなかった。メニュー全部を理解する必要はなかったのである。
向いているのは、もんじゃを食べたことがない人。焼いてもらえるので、何も知らなくていい。
そして——通り過ぎている店が、たぶん誰にでもある。
同じ店に、2回行ってみた話
立川の寿司酒場に2回行った。307日あけて、39秒違いの同じ時刻に入っていた。そして2回目だけ、メニューを7枚撮っていた。
→ 立川すしわさび|1回目は代表料理を頼む。2回目から攻略が始まる
店舗情報
| 店名 | 月島もんじゃ もへじ 町田 |
| 所在地 | 東京都町田市原町田6-21-32 GREST町田1F |
| アクセス | JR横浜線・町田駅北口から徒歩3分 |
| 頼んだもの | イカ墨もんじゃ/お好み焼き/お酒(銘柄は記録していません) |
| 訪問日 | 2026年6月7日(日)15時台(初訪問) |
| 備考 | 焼きはスタッフの方が行ってくれます |
※価格は掲載していません。※営業時間・定休日はこの記事では記載しません。公表値は変わることがあるので、行く前に必ず店舗にご確認ください。